作家(翻訳者等含む):寺山修司 出版社:ちくま文庫 出版年:2023
かつて一世を風靡した寺山修司という人物は、今でもサブカル好きの若者達からの人気を集めている。
前衛演劇やアヴァンギャルドの代名詞としてよく知られ、戦後日本の若者文化を率いた彼だが、なぜ没後40年経った現代でも名を残しているのか。寺山を表す言葉にはアングラという表現もあるが、ここまで注目され続けてきたのならば最早アングラではなくサブカルの王道ではないだろうか。閑話休題。
本書は彼の作品の中から副題「少年少女のための作品集」に沿って、ちくま文庫オリジナルに詩やエッセイ、物語を選書した本だ。
60年代・70年代を知らずに生まれた若者である私の立場から言えば、過激な学生運動の興ったこの時代の印象はあまり良いものではない。また、他の人々もそう感じるからこそ学生運動は廃れたのだろう。これに反して、時代の当事者たる寺山はなぜ未だに人気があるのか。その理由を分かりやすく表したのが、この作品集だろう。
寺山修司というととにかく奇抜な印象が強いが、本作品では短歌、エッセイにおける寺山の「包容力」に着目している。誰もが必ず通過する、思春期のアイデンティティにおける不安や大人への不信感という不確かながら心にあるものを、空や海、瓶などの青いモチーフを介して表現する。青春のモラトリアムを率直に描き、社会からの疎外感を抱く青少年への精神的居場所を提供するような作品集だ。
若者からするとひと昔以上前の作品を集めたものではあるが、寺山の言葉にはいつでもどこか親近感と新鮮味が同居している。
青い不確かさをそのまま肯定しつつ、時に深刻に軽妙に紡がれた表現は、一筋の光明のように読者の心を刺激する。奇天烈なイメージとは裏腹に彼の短歌やエッセイは、彼が、子供と大人の間にあるアンバランスな均衡と衝突を、繊細に見極める視点を持っていたことを伝えてくる。
また、寺山修司の作品は、現代の人が読んでも古めかしく感じない、どころか新しい価値観と調和するように感じる点も特徴的だろう。
エッセイを見ると顕著なように、戦争と戦後復興の過程を見た彼や同時代人は、一際強い大人世代への反発を抱いていた。戦争を続け、日本を、世界を困窮させた大人世代の価値観は、未来を担う若者の新たな価値観によって打ち倒されなければならない。こうしたカウンターカルチャー・サブカルチャーの根幹的思想は一時期下火になったものの、ここ数年でリバイバルしている。
コロナという疫病の世界的流行、年々膨らむ年金問題、男女平等やジェンダーへの配慮など、社会のあり方に、根本的で大きな疑問が付される事態となっている。時代の大きな変化の中で、本当にこのままで良いのか?と社会を問うからこそ、現代社会からの疎外感は生じる。その些細は寺山の時代とは違えども、自分たちが価値観をアップデートするという若者の当事者性があるのが、当時だけでなく今の若者にとっても受け入れやすい理由だろう。
来年には『テラヤマ・キャバレー』という寺山が主人公の舞台の上演が決定するなど、未だに衰えることを知らない寺山人気だ。今を生きることが疲れた時、自分のしていることが正しいのか分からなくなった時、それをそのまま認める本書は、あなたの人生に寄り添ってくれるだろう。
書き手:小松貴海