「COCOON コクーン」
今日 マチ子(秋田書店 2013年)
愛らしいツインテールの少女。その背後には青い空と海、そして色鮮やかな草花が生い茂っている。
絵柄も相まって一見すると楽園のように錯覚するが、よく見ると少女はもんぺ姿だ。もんぺのひざ下には血のようなものが飛び散っている。
ある島の女学校に通う少女・サン。彼女の日常は次第に戦争に巻き込まれていく様子を描いた作品である。戦時下、少女の存在は圧倒的暴力の前ではあまりにも非力だ。彼女たちは飛行機で敵を攻撃することもプロパガンダで民衆を導くこともできない。ただ巻き込まれ、そして死んでしまう。
このあまりにもどす黒い戦争のなかで壊れてしまわないようにサンたち彼女が働かせたのは「想像力」だった。
爆撃によって死体と瓦礫の飛び散った道を走る時も、看護隊として毎日血や蛆にまみれた兵隊を看ることに耐えきれなくなった時も、想像力という「繭」で彼女自身の心をどうにか守ろうとしたのだ。
タイトルの「コクーン」にも表れているが、この作品では少女たちは繭を紡ぐカイコに例えられている。カイコは絹糸をとるために蛹の状態で殺されるが、次のカイコを産ませるために何匹かは殺さずに羽化する。だがカイコは自分が殺されないカイコとして選ばれる(あるいは選ばれない)予兆や運命などは感じないだろう。それは人間も同じではないだろうか。戦争に関わらず、生命の来し方行く末はとても不安定だ。どんな命も明日を生きていられる絶対の保証などありはしない。
自分の頭で何かを判断したり考えたことを凌駕することも珍しくはないだろう。裏切られたり、不意打ちの連続で何もかも諦めてしまいたい気持ちになってしまうこともある。
そんなときに私たちを守るのは想像力なのかもしれない。いかなるものも侵すことができない自分自身の頭の中で時に過去を思い、そして何かを想像することで、人の心には最後の砦が築かれる。戦争を描いた数々の作品ではまずその凄惨さが注目される。それはごく自然なことである。この作品はそれにとどまらず、作者の今日マチ子氏が紡いだ彼女の戦争の物語である。
背景となった歴史的事実と彼女自身の想像力によって生まれたこの作品は、今日とそしてあの戦争の時代を生きた人間に通底するものがあるのではないだろうか。
書き手 上村麻里恵
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