LOCUST vol.05 北海道 北に散りばめられて
ロカスト編集部(2021年)
『LOCUST』は不思議な雑誌だ。表紙の左隅には小さく「旅と批評のクロスポイント」と書かれている。毎号、批評家や作家、アーティスト、学芸員など多様な立場のメンバーが集い、土地に実際に足を運びその場所にまつわる論考やインタビューが寄せるという形式をとっている。
タイトルの"locust"とは英語でバッタを意味する。大群で農作物を食い荒らす災害「蝗害」の際にバッタはいわゆる群れた状態「群生相」へとその姿を変える。彼らが雑誌を作る骨子として立てた問い「よく群れるには」に因んだものだろう。群れる行為の中でポピュラーなものの一つとして数えられるのが旅行ないし旅であり、集団での旅を通じて批評を書くことで群れた中での批評、というこれまでの形式とはズレた(決して悪い意味ではない)批評を生み出す可能性を検討していく本と言って良い。
書き手たちが自らの足で歩きながら綴ったそれらは、旅行記というには端々に見られる思索は論考のように深く、しかし論考集にしては堅苦しくなさすぎる。旅の鞄にも入れておくことができるような身軽さをしている。本号のテーマは北海道である。あまりにも広い大地に、しかし彼らは「群れて」その土地に行くことは叶わなかった。ちょうどこの号を作成する時、新型コロナウイルスの流行と感染対策の広がりで、群れることは感染の危険性を増大させる要因と見做されて旅をすることは社会的立場と健康を身代金にした危険な行為と見なされるようになってしまった。
号のタイトル通り「散りばめられた」彼らは広大な大地の中で小説・人生経験・北海道の中で生まれた文化(建築史からニトリまで!)から記された批評は実にアイディアに富んでいる。
旅人たちの目から見た北海道は豊かな自然と固有の文化形態を含みつつもあまりにも早すぎる時代の流れに動揺しているようにも思われた。北海道に私たち道外の人間が抱くロマンティシズムにどれだけ北海道は翻弄されてきたのだろう。そもそも一括りで「北海道」と指すことが乱暴なのである。札幌の地図をちょうど東京のそれと重ね合わせた時、北海道の面積は本州における東海から関東、北陸、そして東北を足したものに相当する。
それぞれの地方に特色があることは容易に想像できるはずなのにどこかで私たちは雑な想像力に手を染めてしまう。荒涼としていて、冷たくて、寂しい、けど時々温かい…。手で掴もうとすればすり抜けてしまう北海道のことを各地に散った批評家たちはできる限り拾い出そうとしている。
「群れる」という選択肢が閉ざされた上で、あまりにも広く深い大地に投げ出された彼らの足取りは流行病を少しだけ過去のものとしつつある私たちがあの時の不便を思い出す大切な記号にもなりうるだろう。
書き手:上村麻里恵
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