フランケンシュタイン家の双子,フランケンシュタイン家の亡霊
ケネス・オッペル著 原田勝訳(創元推理文庫 2013年)
誰もが知るホラーの金字塔、怪物フランケンシュタイン。フランケンシュタインというのが、実は怪物の名前ではなく怪物の創造者ヴィクターの家名であるということを、ホラーに造詣の深い読者ならご存知だろう。
今回紹介する小説は、そんなフランケンシュタインに関する物語だ。原作小説であるメアリー・シェリー『フランケンシュタイン』は刊行以来大変な人気を誇り、何度も映画化されてきた。この小説を原案とする創作作品は、原作発表から200年以上経過して今なお多く生み出されている。
カナダ人作家ケネス・オッペルの執筆した『フランケンシュタイン家の双子』及びその続編となる『フランケンシュタイン家の亡霊』は、怪物の創造者ヴィクターの少年時代を描いた作品である。若き天才が怪物を想像するに至った過程としての少年時代の体験を描く、言わば原作の前日譚の形式を取る。
もしヴィクターに双子の兄がいたら?幼馴染のエリザベスが原作通りの穏やかな女性でなく情熱的な女性だったら?諸所の設定にオッペルオリジナルのテイストを加えながら、しかしそれでもヴィクターが原作の運命へと近づいていくことを予感させる仕上がりである。オッペルはヤングアダルト小説、日本で言うところのティーン向け、ジュブナイル小説の作家として有名だ。本書も多分に洩れず青少年が楽しめるような雰囲気で描かれている。
原作ではヴィクターは錬金術と当時最新の科学技術を用いて怪物を創りあげたが、本作にはその知識を得たきっかけとして、ジュネーブに建つ彼の住処フランケンシュタイン城の秘密の図書室が登場する。祖先が建てた古城に眠る妖しくも魅力的な知識の宝庫に、心をくすぐられない読者はいないだろう。強情っぱりなヴィクターとは正反対な思慮深い双子の兄コンラッド、2人と幼馴染で遠縁のエリザベス、親友であり気弱な詩人の卵ヘンリーの4人が本作の主人公たちだ。突如謎の病に苛まれたコンラッドを助けるために、ヴィクター、エリザベス、ヘンリーは錬金術の力を借りて不老不死の霊薬をつくろうと試みる。冒険、思春期の複雑な人間模様、魔法のような不可思議な術。王道的ストーリーでありながら、古典作品への導入としての重厚さも持ち合わせた、読み応え抜群のダークファンタジー小説となっている。続編『フランケンシュタイン家の亡霊』では1作目の衝撃の最後からわずか3週間後の新たな冒険を描いており、1作目を読めばすぐに手を伸ばしたくなること必然だ。
さて、今でこそ錬金術は荒唐無稽な眉唾物の似非科学だと見なされているが、錬金術が最盛期であった16世紀当時は真っ当な最新の学問であった。いくつもの化学物質や実験器具が錬金術の試みの中で発見、発明されてきた。やがてそこから自然科学や化学という近現代学問へと移り変わったのだ。メアリー・シェリーが生きた19世紀はその過渡期を過ぎた頃である。科学の発展により、金の生成、人体や魂への接近は理論の観点から不可能であるということが判明しはじめ、段々と錬金術は衰退していくことになる。
そういった背景を踏まえると、秘密の図書室に残された遺産に、怪しみつつも心惹かれるヴィクターの心情に親近感を抱けるだろう。自分とは真逆の存在でありながらそれでも唯一無二の絆で結ばれた兄コンラッドを救うために、藁にも縋りたい心地であったことは容易に想像がつく。増してそれが、一部は本物の技術ということが証明されれば、やがて兄のための必要性からではなくヴィクター自身の欲望から錬金術の叡智を渇望することになるのは、作中描かれる彼の野心によって火を見るより明らかだ。いつからかヴィクターの異常性がジワジワと表れはじめるが、16歳という若さで試練に襲われる彼への同情や共感も決して無くなることはないという点が、若い読者に強く響くのではないだろうか。
ティーン向け小説というジャンルではあるが、一度は少年少女であった人々なら皆が懐かしく楽しめる作品である。ぜひ彼らと共に情熱的で不気味な冒険を楽しんでいただきたい。
書き手 小松貴海
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