毎週一冊おすすめ本をご紹介いたします BOOK LAB.
「Casa BRUTUS 特別編集 最新版 建築家ル・コルビュジエの教科書。」
(マガジンハウス 2016年)
晴れた休日の昼下がり、ふと思い立って美術館に行くことがある。どこの美術館に行きたいだとか、誰の作品が見たいだとかそういった目的はない。ただ美術館という空間にいて、時間を気にせずに過ごすと、何か濃密な空気が呼吸を通して自分の中に入り込んでくるような気がするのだ。
美術館とは美術品を楽しむための場で、美術館それ自体が孕む雰囲気というのはあまり意識されないことが多い。しかし美術館全体もある種の芸術ではないだろうか。
ル・コルビュジエの手がけた東京都の国立西洋美術館は、まさにそうした建築の一種だ。彼は20世紀を代表する建築家で、フランク・ロイド・ライト、ミース・ファン・デル・ローエと共に近代建築の三大巨匠と称される。また彼に師事した日本人建築家が3人おり、日本の建築界にも多大な影響をもたらした。
Casa BRUTUSのムック本として刊行されたこのル・コルビュジエの特集は、国立西洋美術館の紹介や実際の楽しみ方以外にも、彼の弟子に関するコラムや彼が手がけた他の建築の詳細な紹介など、ル・コルビュジエにまつわる様々な情報を写真と共に網羅的に説明してくれる。2016年にこうした特集が組まれたのは、国立西洋美術館を含む彼のモダニズム建築群(7ヶ国17資産)が世界文化遺産に登録されたからであろう。世界文化遺産登録の理由は先に書いたように、近代建築に多大な貢献をもたらしたというものだ。彼は建築設計することだけでなく、自身の建築理論や美学を世へ発信することにも力を入れていた。そうして発信された情報は、現代の建築を支える基礎になっているものも多い。
日本において人気なル・コルビュジエ作品と言えば、やはり先に挙げた国立西洋美術館だ。日本で唯一のル・コルビュジエ作品ということもあり、彼の建築と言えばまず名前が挙がる。大まかな設計は彼が手がけ、実際に工事する際の細部については彼の弟子である前川國男、坂倉準三、吉阪隆正らが行った。
国立西洋美術館に見られる特徴はピロティを伴う外観、「無限に成長する美術館」という構想、自然光の採光構造である。現代建築では一般的となったピロティだが、実は彼が初めて提唱した建築の様式である。
柱で支え地面から建物までの距離をとることで、モダンでスタイリッシュなファサードに仕上げられた。また彼が長年温め続け、実現しようとした「無限に成長する美術館」の構想も大変重要である。展示する美術品が増えるとその分展示スペースも増築する必要がある。展示スペースをカタツムリの殻のような螺旋状にすることで、無限に増築できる仕組みだ。また彼は、美術館では考えにくい自然光の採光を設計に取り入れだ。通常、太陽の光は美術館の状態を劣化させてしまうため遮断することが多い。しかし彼は自然光を取り込むことで、日の当たり方による時間の経過を美術館という空間に表現しようとした。
実際には無限増築の構想は設計に留まり、自然光の採光システムも光量が制限されるなど、現実的な観点からその理念のみが採用された箇所は多い。しかしこういったル・コルビュジエのこだわりはそれ以外にも多くある。自然の中で生きる人間の営みを強く意識していた彼の、知られざる美学がCasa BRUTUSでは詳細に紹介されている。彼が後世に遺した建築のDNAを、現代建築家から辿る記事も必見だ。
ただ人が住む、過ごすためだけの物理的空間としてではない、心地よく自然体でいられるような温かな空気を纏った彼の建築作品を、ぜひこの本を通して体験していただきたい。
書き手 小松貴海
こちらの書籍はBOOK.LABで販売中。ぜひお立ち寄りください。 (電話番号:011-374-1034 HP:BOOK LAB. powered by BASE)
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