今回は、名寄市風連町東風連で馬を飼う、渡辺孝さん(当時69歳)に話を伺ってきた。
渡辺さんは5~10頭のばん馬を飼う。夏場は山の広い放牧地に放し、のびのびとした環境で育て、秋からは自宅近くの敷地に移動して放牧。子馬を出産させた後、春に種付けして再び山に放す。
自宅近くには厩舎(きゅうしゃ)があり、馬ごとの個室「馬房」を設けている。渡辺さんが馬を呼びに行くと、馬は自ら厩舎まで歩いて、各自の馬房に入る。渡辺さんは毎日、馬を馬房に入れる時間をつくり、そこで餌を与え、健康状態も確認し、接してから放牧する。
2022年7月末で長年続けた酪農を引退。「これから動ける間は、好きな馬を養いながら楽しみたい。呼んだら寄ってくる、気性の穏やかな馬を育て、毎日接することで一層、人になじむ」と言う。
育てた馬は市場に出されるか、ばんえい競馬を目指す馬として引き取られる。これまで10頭が競走馬としてデビューしたようだ。
渡辺さんの父は山から木材を運び出す「馬追い」だったが、体を壊したことをきっかけに、牛を飼うようになった。
それでも農耕馬は常に1、2頭飼い続け、機械化が進む昭和40年代前半まで、草取りなど農作業で活躍していた。
渡辺さんが本格的に馬を飼い始めたのは、平成元年(1989年)。刈り遅れた草は牛に食べさせていなかったが、牛と馬は餌が同じ草だったため、その草を馬に食べさせることで、飼う馬の頭数を増やした。
「馬の生産だけでは採算が合わないが、酪農をやっているから、馬を飼うことができた」と言う。
2022年10月26日からハフリンガー種の馬も1頭導入した。イタリア、オーストリア、ドイツを原産とし、ポニーに分類されるが体格がよく、体は栗毛、尾とたてがみは淡色で、見栄えのする美しい毛色が特徴。渡辺さんは「見て楽しむ馬」として飼い始めた。
帯広ばんえい競馬で珍事件となった馬も飼う。当時現役だった馬が、出走前日に競馬場内の厩舎で出産し、失格となったが、その馬と生まれた子馬が巡り巡って、渡辺さんのもとにたどり着いた。
渡辺さんは「朝起きてコーヒーを飲みながら、馬の様子を眺めるのが大好き」と語り、馬への愛にあふれていた。