「協働」の地域社会を目指して5

5 名寄市の外国人材活用の担当者に聞く

藤井智さん

長年、独立行政法人国際協力機構(JICA)で勤務し、現在、名寄市総合政策部で外国人材の活用を担当している藤井智さんに話を伺った。
藤井さんは大阪府出身で、京都府立大学農学部を卒業後、民間企業、大阪府庁などを経てJICAに入構し、2021年3月に退職。同年4月からJICAの再雇用職員として名寄市に出向している。
在職時は、主に農業分野でアジア、アフリカ、東欧、中南米などの国々の農業開発などに関わり、特に、ネパールでは、7年間にわたり駐在し、農業、上水道、水力発電、通信、地域振興などさまざまな分野の開発事業に携わった。
国の新たな育成就労制度
―はじめに、国では、技能実習制度に代わる外国人受け入れの新制度「育成就労」の創設に向けて、関係法律の改正案を、先般、閣議決定し国会に提出しました。
新たな制度は、特定技能と対象分野をそろえて、外国人を即戦力として位置づけ、中長期的な就労を目指していくものと思われますが、新制度への見解についてお聞かせください。
藤井 新たな育成就労制度は、あくまで個人的な考えですが、大きく二つの問題があると思います。
1点目は、1年を超える実習生は「転籍」が認められましたが、現実問題、職場環境の悪い職場で1年間働くことは困難です。反対に、働く環境が良ければ、1年では動かないでしょう。
2点目は、特に、介護などの分野では、待遇面などから、全国的に都市部と地方で引き合いになっており、道内でも、札幌市と地方で同様の傾向があります。今までは、技能実習制度で雇用した場合、1号と2号で合計3年間働き、その後に、特定技能へと資格変更し、条件の良いところへ転職してしまうということが頻発していました。新たな育成就労制度では、1年で転籍が出来るため、地方にとっては安定的な人材を確保する上で、より厳しい状況になることが想定されます。
外国人の暮らしや生活について
―名寄市では、現在、約100人の外国人が暮らしています。言葉や生活の問題などの不安解消などについてお聞かせください。
藤井 技能実習制度や特定技能制度で来日した外国人が抱える問題で、一番大きいのは言葉の問題です。同時に、不安や問題などを抱えた時に、それに対応できる相談窓口があることが重要です。不安などへの対応は、原則として、監理団体などが窓口となっていますが、道内では、札幌市にあることが多く、対応も、電話やオンラインが主流です。オンラインでは、外国人の悩みなどの不安解消は難しく、困った時に迅速な対応が出来るのは、地元の相談窓口などです。
言葉の問題にしても、道内179市町村のうち、日本語教室などを開催しているのは、紋別市、滝川市など21市町村です。残りの市町村は、名寄市も含めて日本語教育の空白地帯で、他の都府県に比べて、北海道は遅れています。
地方の人材不足が続き、外国人に頼らざるを得ない状況を考えると、日本語教室などの環境整備は必要でしょう。直ちに日本語教室の開催が難しい場合、先ず、「日本語お話会」のようなボランティア形式でスタートするのも良いでしょう。メリットとして、外国人と市民とがつながって、相談なども出来るようになり、外国人の不安解消にもなります。また、外国人同士の横のつながりもできます。
日本語教室など、日本語で教えることを核とした支援態勢が確立されれば、安心して地域で暮らせます。
特定技能制度の2号該当者は、全国でも少数ですが、将来的には、日本の労働力人口の減少を考えると、増加していくことが予想されます。2号の該当者は、家族の帯同が認められています。そうなれば、子どもや高齢者なども来るでしょう。
本人達は、日本語の勉強をして資格を取っていくでしょうが、家族にはありません。家族を含めた日本語のケアや外国人対応が必要になってきます。5年後、10年後には、そういう時代が必ずやってきます。今から、準備していくことが必要です。
今後の展望について
―2月から3月にかけてアジア諸国などを歴訪したとお聞きしました。今後の外国人労働者を含めた地域社会のあり方・展望などについてお聞かせください。
藤井 これからは、ますます人材不足となり、外国人材の獲得競争に拍車がかかります。その場合、都府県に比べて、北海道は圧倒的に不利です。先ずは賃金面。そして、外国人は、同胞が多くいるところが安心するので、東京や大阪、名古屋など、大都市に集中する傾向があります。地方は、「どうすれば外国人を獲得できるか」です。賃金は、どうしようもない面があります。そこを乗り越えていくには、名寄での住みやすさ、名寄での生活の安心感などを外国の方に伝え、名寄を選んでもらう。そういう流れを作っていくことが課題であり、名寄市を含めて周辺にも求められています。
今回のネパール訪問は、名寄市とネパールの人材リソースとの絆づくりが目的で、清峰園の後藤施設長にも同行していただきました。
この絆づくりにJICAの事業を活用し、プロジェクト(草の根技術協力事業)の実施を考えています。
具体的には、現地の高齢者支援を考えるNGO(AGEING NEPAL)と一体となった活動を行い、相手国の社会課題解決に貢献するとともに、現地との絆を強化して日本で働いてくれる人材の発掘を図ろうとするものです。また、同時に特定技能制度で介護スタッフとして来名しているネパールの方が、期間終了後に帰国する際、せっかく得た日本での経験を活かし、帰国後も高齢者支援の職に就くことができるようにプロジェクトの中で道筋を整えることも考えています。
プロジェクトは、名寄市社会福祉事業団(橋本正道理事長)が実施主体として提案を行い、採択を受けました。
まずは、市内の人材確保を目指しますが、その後は、名寄市の周辺などで希望する事業者さんへの人材のつなぎを行うことを考えています。
今回のネパール訪問は、プロジェクトのプレ活動として訪問しました。
このような取り組みを進め、成功させるためにも、名寄市に来てくれた外国人が安心して働ける環境、「名寄に来たら幸せになれます」と言ってももらえるような環境整備がとても重要になります。
これまでの経験から今後への期待
―最後に、これまでの経験から、外国人と地域で一緒に暮らす市民に対して、期待することなどをお聞かせください。
藤井 途上国から日本に来て働いている外国人は、日本に対して良いイメージを持っています。「日本は安全」とのバックグラウンドがあります。文化や社会的な違いがあっても、人間としては全く変わりません。市民の皆さんも、特別ではなく、全く同じように接してほしい。うれしい時は喜び、「ダメなものはダメ」と伝えてください。彼らは理解できます。
また、途上国に共通するバックグラウンドとして「家族社会」が挙げられます。昭和30年代頃までの日本社会のように、家族は3世代で、近所付き合いも強い。彼らは、日本に来て孤立しやすく、孤立に慣れていません。
市民の方が、普通に接してくれ、普通の市民の一員として受け入れてくれることが一番喜び、心強く思うことでしょう。
見かけなどは違いますが、普通の市民として受け入れてほしい。私は、関西出身で妻は札幌出身ですが、北海道は受け入れの窓口は広く、寛容でよそ者扱いしない土地柄であると思っています。外国人に対しても同様です。市民の皆さんの今後に期待しています。 
―ありがとうございました。