【名寄】
生活困窮者の自立の促進を図ることを目的に「生活困窮者自立支援促進法」(2015年4月施行)が施行されて、間もなく9年を迎える。
同法に基づき、生活困窮者の自立を促す「生活困窮者自立支援制度(事業)」が全国の地方自治体で取り組まれている。自立支援制度は、各自治体で必ず実施しなければならない必須事業として、「自立相談支援事業」(就職や住まい、家計管理などの困りごとや不安を抱えている人に対してどのような相談が必要か、支援員と一緒に考えて具体的なプランを作成し、自立に向けて必要な支援を行う)、「住居確保給付金」(離職などで住むところがなくなった方に対して、就職活動することを条件に一定期間、家賃相当額を支援)がある。
任意事業として、「就労準備支援事業」(働くことに対して不安がある人などを対象に、就労に向けたサポートや就労の提供などを行う)、「家計改善支援事業」(相談者自らが家計を管理できるよう必要な支援を行う)、「一時生活支援事業」(緊急に住まいが必要な方に衣食住を提供)、「子どもの学習・生活支援事業」(子どもの学習や進学について、お子さんや保護者に必要な支援を行う)がある。
名寄市では、「自立相談支援事業」「家計改善支援事業」「就労準備支援事業」を名寄市社会福祉協議会に委託して実施している。
社協では、事務所内に生活相談支援センターを設置して、「病気や健康」「住まい」「収入・生活費」「就労」「地域や家族関係」「介護」など、日常生活全体についてのさまざまな相談支援業務を行っている。同センターは、所長を天野信二事務局長が兼務し、小笠原志朗係長、鶴原真央相談員など兼務を含めて5人態勢で運営している。相談業務のうち、自立相談支援事業などの現状と課題などについて、天野事務局長以下担当職員に話を伺った。
制度が創設された15年度以降の生活相談支援センターで取り扱っている全体の件数と、自立相談支援件数などを表1にまとめた。
生活相談支援センター全体の相談件数は、15年度から19年度までの5年間は50件~100件前後で推移していたが、20年度は249件、21年度は202件、22年度は151件とコロナ禍で相談件数は大きく伸びている。相談件数のうち、生活困窮者などの自立相談支援件数(新規)についても、同様に、20年度は18件、21年度は29件と、コロナ禍で伸びている。家計改善事業については、16年度以降に数件の相談実績があり、また、就労支援事業については、21年度に1件の相談実績がある。
相談員の鶴原さんは、「コロナ禍では、失業などによる収入・生活費などの相談が増え、緊急小口資金などの生活福祉資金の貸付金が大きく増加した」と述べ、「最近は、以前のような相談に戻ってきており、相談内容も多様化してきている。疑いを含めて障がい者と思われるようなケースも年々増えている」と話す。
また、名寄社協独自の制度として生活資金の貸付制度があり、貸付人数・金額は表2の通りとなっている。この制度は、相談者などの生活資金が不足し、緊急に支援する必要がある人に対して一時的に3万円を上限に貸し付ける制度で、8年間の推移をみてみると、コロナ禍で件数、金額とも増加している。
その他、生活困窮者に対する支援の一つとして、緊急で食料などの援助が必要な人に対して、食料や飲料水などの支援物資を提供している。
次に、名寄市が直営で実施している事業についてみてみる。
「住居確保給付金」については、18年度が1世帯、20年度が2世帯、21年度が1世帯にそれぞれ、1カ月~2カ月分の家賃相当額を緊急避難的に給付している。
「子どもの学習・生活支援事業」については、17年度から市立大学と連携して学習支援と子ども食堂などを実施していたが、コロナ禍で子ども食堂は中止して学習支援を中心に開催しており、23年度は4回実施している。
《生活保護制度》
社会保障制度の最後のセイフティネットとして生活保護制度がある。日本国のどの地域に住んでいても、最低限度の生活が憲法で保障されている。
名寄市における22年度の一月平均の生活保護世帯は217世帯で、人員は248人となっている。世帯類型の内訳は、高齢者135世帯、障がい者36世帯、傷病者22世帯などとなっており、高齢者が62%を占めている。また、保護相談の面談件数は98件で、申請件数は35件となっている。
合併直後の06年度と22年度を比較すると、世帯数で64世帯、人員で142人、それぞれ減少しており、保護率も0.29%減少している。
次に、北海道の「生活保護実施概要」(令和3年度(2021年度)実績・北海道保健福祉部福祉局地域福祉課発行)によると、道内地域別の平均保護率は、札幌市3.63%、旭川市3.65%、函館市4.56%、市部平均(政令市・中核市である札幌市、旭川市、函館市を除く)2.44%、郡部平均1.79%となっており、北海道全体では2.95%となっている。
また、道内で保護率が最も高いのは釧路市の4.81%で、最も低いのが名寄市の0.92%である。
参考までに、年収ガイドが公表している道内市町村の平均所得(年収)によると、1位は猿払村の731万7千円、2位は安平町の577万6千円、3位は枝幸町の462万6千円で、名寄市は84位で307万6千円となっている。
面談件数に対する保護の申請(受給)割合が低い要因と、全道の中で保護率が最も低い要因について、所管する市健康福祉部社会福祉課の滋野俊一課長に話を伺った。
面談件数に対する保護申請割合の低さについては①生活保護制度は「他法他施策優先」の原則から、先ず、各種福祉制度や自立支援制度など、あらゆる制度・施策を活用(例えば、年金や手当、雇用保険などの受給)してもらう②土地、家屋、車などの資産は原則売却⓷民法に基づく扶養義務者の扶養が優先―などを挙げている。
次に、名寄市が全道で最も低い保護率となっていることについては①高齢者の世帯が多く、高齢や疾病の悪化などによる死亡と、市内施設の不足による市外施設への入所(移管による廃止)が多いこと②他市と比較して恵まれた就労環境(全道と比較して高い求人倍率と、障害者就労支援事業所が多く一定の収入が得られていること)③産業別就業人口に占める第3次産業の割合が多く、中でも公務員の割合が高く、退職後の年金収入も他の職種より安定していること―などを挙げている。
生活困窮者自立支援法の趣旨は、生活困窮者に対して必要な措置を講ずることにより自立を促すことである。福祉制度などを活用して必要な支援を実施し「自立を促すこと」と、それでも自立が困難な場合にセイフティネットとしての「生活保護制度」がある。双方がうまく機能することで誰もが安心して暮らせることができるので、相談者が安心して来所できるよう、今後も、一人一人に丁寧な対応に心がけ、安心安全なまちづくりを進めてほしい。