筆者が下川町内で飼っている北海道和種馬のハナを、乗馬で移動させながら民家の草刈りにも伺っている。
草刈りとしては、馬の移動、簡易柵設置などの手間も含めると効率的ではないが、「持続可能で豊かな暮らし」を見つめ直す機会になると感じている。
馬は雑草を食べて自身のエネルギーへと変換、良質なたい肥となるふんを出し、資源の好循環を生み出してくれる。馬がいることで自然と人との交流も生まれる。さらに、馬を眺めるだけでも人の自律神経を整えることが期待されている。
民家の雑草を資源として有効活用しつつ、草刈りに結び付けるとともに、馬のいる時間をさまざまな場所で共有したい思いもある。
草刈りを兼ねた出前放牧は、電気柵で囲って行う。電気柵は、触れても静電気程度の感触だが、馬も心理的に触れたくないため、柵の中に留まろうとする。よほどのことがない限り柵から出ない。
出前放牧を行う条件は①下川町内(日帰りで往来できる場所)②誰かが馬を見ている環境③放牧敷地内の安全が確保されている④水を与えてくれる⑤除草剤や化学肥料をまいた草を食べないため、それらが使われていない場所である⑥公営住宅や施設などは所有者または管理者に放牧許可をもらっている⑦道行く方も馬に触れ合うことが可能であること―としている。
ただ、これまで条件を文字化していなかったため、今後は経験も踏まえながら改善を重ね、チェック項目を明確化し、万全を期したい。
過去には敷地内の安全確認をしたつもりでも、柵の近くの草むらに隠れた穴があり、馬がつまずいて飛び跳ね、柵のワイヤーに体をひっかけて出たことが、一度だけあった。
幸い、近所の皆さんも優しく見守ってくださったため、すぐに柵に戻すことができ、草むらにあった穴もふさいで、無事に放牧を終えたが、柵を囲む敷地内の安全確認を、受け入れてくださる方と徹底することが重要と感じた。
いつも馬を温かく見守ってくださる、各地の近所の皆さんに、深く感謝しています。
料金はもらわず、物々交換や支え合いで返していただくことにしている。できることを循環し合う暮らしを、生み出したいからである。
一般家庭でも導入し始めた2022年のシーズンは、7月に町内の民家や公営住宅などを合わせて5件巡った。8月以降も住宅数件を巡回している。もちろん、従来通り町内の施設にも出前放牧を続けている。
中には、小学生たちが馬の世話をしながら、来た人たちにも応対して「36人来てくれて、ほとんどの人が通りすがりの方で、餌(草)もあげてくれた」と報告してくれた。
団地の住宅前で放牧を利用された方は「団地の方7人、お子さん2人がハナちゃんを見つけて見に来てくれた。部屋の窓から眺めてくれた方もいて、車で見に来てくださった大人やお子さんもいた。みんながうれしそうにハナちゃんを見ていたので、私もうれしくなった」と伝えてくれた。
草が50cmぐらいに伸びてから相談してくださった住宅もあったが、ハナも伸びた草を食べるのは大変のようで、日帰りでは食べきれなかった場所もあった。
短く若い草の方が広範囲を食べられ、おいしいようだ。草が伸び始めた段階で食べてもらうのが、馬にとってもうれしく、草も伸びづらくなり、日帰り放牧に効果的と実感した。
経験から得た学びを十分に生かし、人と馬と植物の好循環を模索したい。
2024年になると5月から毎日のように町内を草刈り放牧で巡り、ハナの遊牧生活の日々が続いている。
<今回は名寄新聞の2022年8月27日付掲載記事を基に再構成しました>