下川の児童たちも挑戦、対話の在り方学ぶ「曳き馬」

 馬と一緒に歩く「曳き馬(ひきうま)」は、単純に見えて奥が深い。馬と互いを思いやり、言葉ではない「心」の対話を重ね、心を通わせることで、信頼関係を深めることができる。
 筆者と愛馬ハナも、「言葉ではないコミュニケーション」である曳き馬を通して学び、楽しんでもらおうと、下川町内の移住体験や観光、研修、地域共育など、さまざまな場面で体験機会を提供している。
 「曳き馬」は、馬の顔に着けた馬具「頭絡(とうらく)」の下に、ひき手のロープを引っかけ、馬のあごから30cmの長さのところを持ち、たるませた状態で共に歩く。
 目指す場所まで馬と一緒に歩く―という意志を持ち、自分の目線や姿勢、動きなどで分かりやすく伝えることで、馬に自らの意志で歩いてもらう。
 ひき手を引っ張って力任せに歩かせようとすると、馬は不快に感じ、一緒に歩くことが嫌になってしまう。そもそも馬は人よりも力が強く、力任せに動かすことはできない。
 一緒に歩いてくれるときは、ひき手を引かず“馬にとって快適な状態”を保ち、勝手に違う方向に行こうとしたり、草を食べようとしたりと、好ましくない行動をしようとした瞬間は、ひき手で阻止し、“好ましくない行動”であると理解させる。
 馬が草など自分以外のことに意識を向けてしまったときは、声をかけ、体に触れるなどして、自分へ意識を向けさせてから、自分の意思を伝えることで、一緒に歩いてくれる。
 馬との対話では、双方で相手を理解し合おうとする気持ちが不可欠。急激な合図は相手を驚かせて不安にさせ、対話ができなくなり、分かりづらい合図も混乱させる。相手の反応を感じ取りながら、自分の意思を相手の立場になって、段階的に分かりやすく伝えていくことが大切で、それを馬が曳き馬などの対話で教えてくれる。
 昨年はハナによる「曳き馬」体験を、新たに名寄市立大学のキャンプ、下川小学校のクラブ活動や1年生の授業にも取り入れた。
 下川小のクラブ活動では、自然体験クラブのアクティビティ班に毎年「乗馬」を提供しているが、昨年は自然体験クラブの動植物班にも「曳き馬」を提供した。
 児童たちは対話の仕組みを馬と向き合う中で学び、馬の意識を向けながら、力に頼ることなく、一緒に歩けるようになった。児童たちの成長を見ることができ、筆者にも貴重な経験になった。
 「対話」は社会の中で欠かせない。その在り方を、馬は教えてくれる。

<今回は2025年1月30日付名寄新聞掲載の記事を基に再構成しました>