これは2023年のお話。
下川町で4年ぶりに馬が誕生。しかも北海道和種馬(ドサンコ)である。2019年5月に町内三の橋の及川牧場でばん馬の出産があったが、それ以来となり、町内で在来馬の誕生は非常に珍しい。現在、町内一の橋で放牧され、愛らしい子馬の姿が人々を和ませている。
昨年(2022年)、下川町一の橋地区にやってきたドサンコの「ゆう」(5歳メス・佐目毛、道内芽室町出身)は、筆者の愛馬でドサンコの「ハナ」(11歳メス・栗毛、道内七飯町出身)と共に、町内の及川牧場で世話になり冬を越した。
ゆうは、一の橋に移住した佐野美紀さんが飼っている。
ハナは4月下旬から町内付近(現在、美桑が丘)へ移動したが、ゆうは出産を控えていたため、一の橋に十分な草が生えるまで、三の橋の牧場に残った。
ゆうは5月14日の早朝、無事に月毛のメスを生んだ。
美紀さんは生まれた馬に「あきやま」(通称・あーちゃん)と名付けた。
「ゆうは下川に来る前の牧場でラミレスを産んだ後、次の妊娠の可能性も知らされていた。今年2月、お腹からたたくような振動が数回感じられ驚いた。3月に入ると、少しお腹が垂れ下がったように見え、横にも張ってきた。腹から一瞬何かが突き出すような動きを見せた。4月後半には妊婦のお腹になり乳房も発達。腹ははち切れんばかりに大きくなった。乳漏れは直前まで確認できず、ラミレスが生まれたちょうど1年後に出産。生まれたぬれ馬は夜明けには乾き、ヨタヨタと歩き出していた」と振り返る。
「乳牛の出産は経験があるけど、馬の出産経験は初めて。妊娠中のゆうは肋骨(ろっこつ)が浮き出始めた。動物も飼養環境も違うけど、肉付きの良い家畜の感覚が染みつき、少し肋骨が見えると健康体でも不安になった。妊娠中のゆうには、小峰師匠のように自然に近い形で草のみを与えて飼養するだけでは少し心配で、大麦、餅米、フスマペレットの余りをもらって与えるなど、あたふたしていたが、あっけなく一夜で馬は2頭になっていた」と心境を語る。
生まれてすぐの馬に行う調教が「刷り込み」だ。人への恐怖心を取り除き、人をリーダーと思い込ませる。出産後72時間以内に、鞍(くら)や頭絡(とうらく)などを着けることも意識しながら、子馬の体、脚、脚の裏、股の間、耳・鼻・口の中、尻の穴までいたるところを触る。いろいろな人に触れてもらうのも、効果的とされる。1回15分程度で、何度も繰り返す。
美紀さんもなるべく、ゆうとあーちゃんと一緒に過ごし、こまめに刷り込みを行った。筆者も合流し、少し刷り込みに加わった。生まれたばかりのあーちゃんに癒やされた。
<2023年6月27日付名寄新聞掲載の記事を基に再構成しました>