3 医療(介護)連携ネットワーク
道北地方北部の住民がどこに住んでいても、一定水準の医療の提供が受けられるよう、診療情報の共有や遠隔診療など、道北地方北部の医療機関が連携する「道北北部医療情報ネットワーク」(通称:ポラリスネットワーク)が、2013年6月からスタートした。
佐古和廣院長(当時)が中心となり、旭川医科大学の守屋潔医工連携総研講座特認教授(当時:現名寄市立総合病院情報管理センター長)などが協力して立ち上げた。名寄市立総合病院、市立稚内病院、士別市立病院、枝幸町国保病院の4医療機関で診療データ(CT、血液検査、処方など)を共有・公開し、クリニックなどの診療所が、公開されている診療情報を参照して診療・看護などの業務を行っている。
名寄市立病院の救急搬送は、約半数が市外からで、上川北部の他、宗谷全域、紋別方面など多くの市町村から救急患者を受け入れている。ポラリスネットワークの活用により、救急搬送が不要となったケースが約20%ある。現在、公開型の医療機関は、先に述べた4病院に加えて美深厚生病院、下川町立病院、風連国保診療所など合計12医療機関で、公開型の医療機関の情報を参照する参照型医療機関は19ある。紋別地方を含めた道北北部の公的医療機関は、全てポラリスネットワークに参加している。
ポラリスネットワークが設立されて活用が進むと、歯科医院、調剤薬局などの医療分野に加え、介護の分野からも期待する声が挙がった。守屋さんは、旭川医大を退職後、市健康福祉部の参与として、介護を含めたネットワークの立ち上げに尽力し、21年度には、名寄市内の調剤薬局、歯科医院、介護サービス施設・事業所、及び地域包括支援センターなどが加わり、医療と介護の連携を強化した新たな「医療介護連携ICTネットワーク(Team)」が本格稼働した。
新たなネットワークは、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供できる名寄版の地域包括ケアシステムで、「医療と介護が1つのチームとして生活を支える」ことを目的にしている。
介護認定を受けた高齢者などを対象に、ポラリスネットワークの医療情報(いま服用している薬、検査結果)を参照し、医療職と介護職が連携・協力して見守る仕組みとなっている。具体的には、入院患者の退院調整、病院外来と地域との連携、消防との連携(今年から)などに活用している。訪問時に、利用者の写真や動画を撮り、その時の症状や生活状況などを、関係者がリアルタイム又は随時、共有できることが大きい(利用者や家族には加入時に同意を得ている)。
市立病院の看護部外来看護係長の宮腰七蘭さんは、Team導入の際「ただでさえ忙しいのに仕事が増える」「どのように使ったら良いか分からない」など、スタッフは否定的な意見が多かったと述べる。一方現在は、多くの外来看護師が「繋がれるって安心」「地域と一緒に患者さんを守っている」「顔の見える関係性ができた」などと話しており、導入後の効果を語る。
導入に向けて、医療職と介護職の勉強会などを開催し、心不全の症状や受診の目安(受診体重)などを共有。さらに、地域とも連携して共通認識を図った。
また、導入前は、「病院に迷惑がかかると遠慮する」「受診が来週だからと遠慮する」「症状が気づきにくい」「生活が見えにくい」など、患者さん自身のセルフモニタリングも難しく、受診が遅れる傾向にあった。一方、導入後は、利用者のサービス利用時の情報を瞬時に入力することで、市立病院を含めてネットワークでつながっている機関全てで情報を共有でき、受診体重や症状の増悪時は早期受診に繋がり、入院の回避などができている。
認知症の妻と暮らす悪性リンパ腫の疑いがある80代男性は、胸水増加を繰り返し、胸水穿刺を外来や救急外来で毎回行い、医師は、症状の悪化と捉え、処方薬を増量していった。包括支援センターの職員が訪問し、薬が思うように内服できていないことが分かり、訪問薬剤を開始。訪問薬剤師の服薬指導を受け、症状は次第に回復した。その後、胸水貯留はなく元気に過ごせるようになり、妻と住み慣れた自宅で生活ができている。
また、「最期は自宅で迎えたい」との思いを持った終末期の患者が、ぎりぎりまで訪問診療などのサービスを受け、入院後数日で最後を迎えたことなど、Teamによる関係者の情報共有と連携により、ぎりぎりまで本人の希望を叶えてあげられた―などの効果があがっている。
宮腰係長は、「医療だけで支えるのは限界があり、医療と日々の生活双方の視点が必要」と話し、Teamの導入後は「やりたい看護ができ、新たな看護師の働き方改革になっている。患者さんも、医療者も、介護者も元気になれます」と、笑顔で語った。
一方、介護分野では、ネットワーク設立に関わり、現在活用している市地域包括支援センターの橋本いづみさんは、Teamの導入により「利用者が関係している病院や関係機関などからタイムリーな情報を得ることができる。相互の風通しが良くなり効果的な支援につながっており、転記ミスも減った。」と話し、「Teamへの投稿は、自分のタイミングででき、関係者はいつか見てくれる。電話がつながらない場合などはストレスも溜まっていたが、書き込みだけで伝わるので、電話やFAXによる連絡なども減り、仕事の効率が大幅にアップした」と、大きな効果を述べる。
また「導入前は、地域包括支援センターやケアマネージャーなどを介しての連携で、サービス事業所同士の直接連携は殆どなかったが、導入後は、直接情報交換できるようになり、相互理解が進み、利用者の中には、再入院しないで、在宅で過ごせている人もいる」と、語っている。
大きな効果が上がっている名寄版の地域包括ケアシステム(Team)は、守屋センター長が技術支援などに関わり、士別市でも来年度の導入を予定している。 (松島)