地域住民の命と暮らしを守る「名寄市立総合病院」7

7 和泉病院事業管理者と眞岸院長に聞く
名寄市病院事業の和泉裕一管理者と眞岸克明院長に名寄市立総合病院を取り巻く状況や今後の課題などについて話しを伺った。
―はじめに、昨年度の決算は残念ながら赤字でした。本年度の4月から9月までの上半期における入院・外来の診療実績や、収支の見通しなどはいかがですか。
眞岸院長 本年度も、昨年に引き続き、厳しい状況が続いています。2023年10月から4階西病棟を休床しているため、ベッドの稼働率は上がっています。上半期の入院ベッドの平均稼働数は218床くらいで推移しています。上半期の患者数は、前年同期と比べて入院で3217人の減(率にしてマイナス7.6%)、外来で4553人の減(同マイナス4.2%)となっています。収入不足は否めないため、収支の見通しについては、昨年の約4億円の赤字を上回るのではないかと想定しています。
和泉管理者 本来は、再診外来患者数を一定程度抑えて、入院中心の診療体制へシフトしたいところです。収入面においても、当院の役割としてもそれが理想です。しかしながら、市内や周辺の病院や診療所が縮小してきているので、当院に集中している現状があります。
―今年は、昨年ゼロだった研修医が4人採用となりました。医師・看護師などのマンパワーの状況と、不足している診療科や今後の見通しなどについてお聞かせください。
眞岸院長 研修医を含めた医師全体の数は、70人前後で推移しており、来年度も、研修医採用の見通しは立っています。診療科では、糖尿病代謝内科が、大学からの出張の先生にお願いしている面があり、一部の患者さんを他の病院や当院の他の診療科にお願いしています。
医師以外では、看護師と薬剤師が不足しています。看護師については、従来から充足している時代はほとんど無かったと思います。薬剤師については、全国的に調剤薬局や民間病院に流れている傾向があるので、来年度から奨学金の返済支援制度を開始します。引き続き、医師の充足とともに、看護師や薬剤師などのマンパワーの確保に努めていきたいと考えています。
和泉管理者 診療科では、大学からの派遣との関連がありますが、麻酔科についても医師漸減になっています。従って、手術の一部を制限しています。また、昨年からハイブリッド手術室への改修工事を実施していましたので、手術全体の数が減り多少収入に影響している可能性もあります。
―10月に市内で新たにクリニックが開業されました。救命救急センターを持ち3次救急を担う市立病院と、診療所、主に慢性期を担う病院との病診連携(病病連携)の現状と今後の課題などについてお聞かせください。
和泉管理者 高齢化が進展し、いくつもの病気を抱える高齢患者が年々増えてきており、この傾向は、今後ますます続いていくものと思われます。一つの病院を何カ所も行くのではなく、どうしても、多くの診療科がある市立病院に集中します。この部分は、開業医の先生と市立病院の連携というより、市民の皆さんに医療の制度を分かってもらうのが重要と思います。しかしながら、総論では理解していただいても、各論では、家から市立病院への距離の近さなどで通院される方もいて、なかなか思うようにはいきません。
国では、外来医療の明確化・連携を強化し、患者の流れの円滑化を図るため、「医療資源を重点的に活用する外来(紹介受診重点医療機関)」の制度を設けました。救命救急センターを抱え3次救急を担う札幌や旭川などの医療機関は、多くが指定されています。具体的には、かかりつけ医からの紹介患者、手術・処置などをする患者などを中心に受け入れ、症状が安定している患者は、なるべく他の医療機関で診ていただき、入院を中心に医療資源を集中させる―ということです。診療報酬の改定で、一定の上乗せがなされました。
市立病院は、紹介率などの数値が基準に達しないため指定は受けていませんが、指定されると患者の定額自己負担が増えることになります。
市立病院には、1日平均800~850人前後が外来に訪れますが、同規模の病院では400~500人程度なのでかなり多い人数です。比較的安定した患者さんも多く通院していると思われます。しかし、基準を満たすために外来の人数制限などをするのは難しく、上川北部の地域医療調整会議の中でも、「基準を満たすために無理することはない」などの意見が出されています。
そうなると、構造的な問題として赤字を抱えていくことになります。そこのところが大変難しいのですが、病診連携や病病連携は上手くいっていると思います。一方、外来を診ていただけるクリニックなどは、もっと増えてほしいと思っています。
今後は、地域医療の将来のあり方を示す「地域医療構想」が益々重要になってきます。構想の中では、市立病院は高度急性期と急性期、一部回復期です。その他の病院は、士別市立病院が一部軽症の急性期と回復期ですが、多くは慢性期の病院です。このような位置づけは、総論としては全体で理解できていますが、各論では、患者さんの状況などにより受け入れ困難な場合があり、できていない面があります。
上川北部の地域で、持続可能な医療が継続できるよう、相互の医療機関の協力が不可欠です。
―病院事業管理者の和泉先生は、10月から東病院の院長になりました。名寄市病院事業として、市立病院と東病院の役割や今後などについて改めてお聞かせください。
和泉管理者 東病院の院長は、上川北部医師会の会長であることから務めることになりました。東病院は、完全な医療療養型の慢性期病院です。手術が終わった患者さんを、速やかに東病院に送ることができればいいのですが、完全な慢性期病院であるため、リハビリなどを重点的に行う回復期病院が、その間に必要になります。残念ながら、周辺には回復期機能を持つ病院は少ないのが現状です。回復期の病院(病床)を増やさなければなりません。回復期の病院・病床ができることで、市立病院で手術した患者などを転院させることができます。現在、東病院は、医師・看護師不足などから、105床のうち60~70床の稼働で推移しています。
また現在、東病院には、市内中心部へ移転改築の話が出ています。中心部に移転することで、限られた人材や医療機器などの医療資源を有効に活用することができるので、検討を始めたところです。市立病院は外来患者が多いので、東病院が中心部に移転すると外来が分散されます。現在、検討している候補地の近くに臨生会吉田病院があるので、東病院と協力できることも大きいです。移転改築については、設置者である名寄市の考えです。
―市立病院の前身である名寄町立社会病院が1937(昭和12)年に開設されて以来、87年が経過しました。この間、市民はもちろん、道北北部の住民の命と暮らしを守ってきました。今後の病院のあり方と、市民や地域住民の皆さんへ、協力や呼びかけたいことなどがあればお願いします。
眞岸院長 最近は、市民の皆さんの病院のかかり方、救急へのかかり方も、以前よりは落ち着いてきました。病棟を一つ休床していますが、入院や手術を断るようなことはありません。市立病院は、救命救急と急性期の最後のとりでだと思っています。その立ち位置は変わらないので、守っていきたいと思っています。直ちに、ベッド数や診療体制を変更することはありませんが、高度急性期・急性期の医療を守るため、市民の皆さんには理解していただきたいと思っています。
また、働き手の不足などもあり、マイナンバーカードの利用、業務へのスマートフォンの導入など、さらなるデジタル化を進めなければなりません。患者サイドも、医療者も変わっていく必要があると思っています。
和泉管理者 一般の救急は落ち着いてきましたが、高齢者の救急が増えています。高齢者が救急車で運ばれて入院すると、入院が長くなり退院が難しくなって、市立病院のベッドが空かなくなります。今後は、高齢者の救急を受け入れる病院が必要になります。ほとんどは、自宅か施設から救急車で運ばれて入院となりますが、症状が回復すると、戻るところを考えなければなりません。地域で高齢者の救急を受入れることができなくなれば、旭川や札幌の病院に行かなければならず、地域の医療が崩壊します。
今後は、人口減などで働く人も減っていきます。社会全体の予算・資金も減り、病院も効率的に残していかなければなりません。住民の方だけでなく、病院・医療者側も意識を変えていく必要があります。
病院の機能分担が益々重要になってきます。同時に、高齢者の増加などにより、在宅・訪問診療が必要になってきます。現在は、風連国保診療所が訪問診療を実施しています。他の医療機関は、系列の施設などが中心です。今後は、東病院を含めて、訪問診療を行う医療機関がもっと必要になってくるでしょう。立て直しの方針が決定したら、東病院の役割について幅広い議論を、関係者と進めていきたいと思っています。
―本日はお忙しいところ、ありがとうございました。
(松島)