8 終わりに
これまで、7回にわたって、名寄市立総合病院設置とその後の経過、病院の概要、医療(介護)連携ネットワーク、地域医療連携推進法人、医師の働き方改革、救命救急センターなど、市立病院が地域に果たしている役割などを中心に述べてきた。
病院運営の根幹となる医療法は、数年に一度改正される。直近では、2021年に医師の働き方改革、新興感染症への対応、外来医療の機能明確化と地域連携などが盛り込まれて改正された。
このうち、「外来医療の機能明確化と地域連携」については、一部の医療機関に患者が集中し、待ち時間の拡大や勤務医の負担が生じていることから、外来の報告制度が創設され、かかりつけ医機能の強化と、外来機能の明確化、地域連携が、より一層求められることとなった。
3次救急の役割を担う市立病院と、初期医療や回復期・慢性期の役割を担う他の病院・診療所との機能分担がますます重要になってくる。
町立下川病院の片野俊英院長に、市立病院との連携などについて話しを伺った。
片野院長は、15年4月から院長を務めており、総合診療科を中心に幅広く診療している。下川町の救急の状況については、「基本的に断らない。当院で対応出来れば受け入れ、専門的な医療が必要な場合は、市立病院にお願いしている」と話し、都会の一部で起きている「『たらい回し』のようなことは、この地域ではない」。「受け入れをお願いする際は、医師同士で話し、市立病院から断られたこともない」。また、「市立病院で手術や処置などを実施し、症状が落ちつき、急性期を脱した患者についても、少し時間がかかる場合もあるが、町内の患者などを中心に受け入れができている。役割分担が機能している」と語る。
外来についても、「下川町民の多くは、当院にかかっている。市立病院がパンクしないよう、地元と中核病院である市立病院の両方を守っていく必要があり、それができていると思う」と述べる。
同院では、訪問診療や訪問看護などの在宅医療も実施。片野院長自身も週1回訪問しており、車椅子送迎が可能なリフト車なども備えている。
今後も、「当院で進めることと、市立病院にお願いすることを分担し、地域の医療を守っていきたい」と決意を語っていた。
市立病院の末永い存続と発展などを目的に、市民の有志による「名寄市立総合病院サポートクラブ」が15年7月に設立された。
同クラブの湯川孝一さんは、「20数年前に父が心臓疾患で倒れ、市立病院が命を救ってくれた」と述べ、同院への感謝の気持ちから、設立当初から関わり、現在は事務局長を務めている。
現在、34個人、25団体で構成し、毎年、病院周辺の環境活動、花プランターの設置、サポートニュースの発行や病院広報など、市立病院を支える活動を市民の立場から実施している。
代表の萬谷千絵さんは、「サポートクラブは、市民と病院との架け橋を目的の一つにしています。市立病院は名寄だけでなく地域の中核病院です。今後も、まちづくりに大きな役割を果たしていく病院を、市民の皆さんに応援いただき、地域全体で支えていけるよう活動していきたい」と語った。
人口減少は続くものの、高齢者の増加により、複数の疾患を抱える高齢者が増え、多くの診療科がある市立病院に患者が集中する傾向は、今後も続くものと思われる。同時に、高齢者の救急も増加が予想され、このことは、前回掲載した和泉管理者と眞岸院長の対談でも述べられている。
医療機関相互の機能分担は、一定程度進んでいるものの、高齢者救急の増加は、新たな課題となっている。
また、救急医療の充実と医師の働き方改革という、相反するような取り組みも進めて行かなければならない。
地域の医療を取り巻く状況は、年々厳しさを増している。
今後も、市民や地域住民が安心して暮らしていけるよう、市民一人一人の力で、市立病院を守り育てていくことが求められている。(松島)
〈第5部終わり〉