BOOKLAB.書籍紹介 デザインの引き出し47

作家(翻訳者等含む):グラフィック社編集部 出版社:グラフィック社 出版年:2022年

一見すると本には見えないこの立体的でインパクトの強い表紙。
独特な画風のキャラクターは、大人気イラストレーター・ヒグチユウコによる「ひとつめちゃん」である。
グラフィック社が手がけるデザイン系実践情報誌「デザインのひきだし」は、創刊以来多くの読者の支持を得ており、ついに50号を突破して先日51号が発売された。
この雑誌は、その名の通りデザインに関する様々な知識や技術、製作過程を詳らかに紹介する書籍だ。玄人向けのディープな内情を掲載するとともに、これからデザインに携わりたい人々の関心をも惹きつける唯一無二の雑誌である。
今回ご紹介するのは、その中でも箱・パッケージに関する特集が掲載されている47号だ。
表紙の手触りは、木材パルプに由来する毛羽立ちがなんとも心地よい。特集テーマを体現するように、パイプモールドの技術を用いて立体成形されている。
47号が発行されたのは2022年10月であり、特集テーマにパッケージが選ばれた理由の一つとして、コロナ禍の影響により商品の包装に注目が集まったことが挙げられている。
また、SDGsなど環境への配慮の一環に、金属やプラスチックを使わない紙製パッケージを用いる企業が増えたことなどもデザイン業界における大きな変化だ。
本書はそうした潮流を汲み、デザインの現場ではどのようなパッケージがつくられ流行しているのか、生の声を記す。
「デザインのひきだし」において毎号人気なのは、なんと言ってもその表紙の豪華さと、製作過程に関する特集記事である。書籍としてのデザインの限界にチャレンジしつつ、様々な製作会社との共同を経て読者の手元に届けられるまでを、深堀りして紹介している。
パルプモールドでつくられた今回の表紙に関して言えば、王子キノクロスという会社の「キナリト」なる素材の紹介や、素材を立体成形するための金型づくりから製本に至るまでの過程を、順を追って記事にしている。
デザインというものを享受する私たち一般人の多くは、それがどのようにして企画立案され、試作され、製品化されてきたのかを知らないだろう。完成されたものを手に取っている。しかし本書では、デザイナーや製作者の見えない努力を明るみに出し、まさに裏の裏まで徹底的に見せてくれる。ブランドや商品を支え、コンセプトを体現する包装という縁の下の力持ちにスポットライトを当てた号だ。
また、今号では箱やパッケージのサンプルとなる付録が多くついており、雑誌内で紹介されている会社の実際の製品に触れることができる。様々な会社と密に関係を持ち、デザインの現場を渡り歩く「デザインのひきだし」だからこそ可能な付録である。
パッケージの発注はこれまで企業の製品が多かったが、昨今のハンドメイドブームによってオリジナルの包装をつくることへの需要が高まっている。これから初めて発注する人に向けて、小ロットの注文が可能な業者や安価な製品を紹介している本書は、本当の意味で、素人にも玄人にも痒いところに手が届く情報誌である。
毎号話題となり完売が相次ぐ雑誌ではあるが、ぜひ自分自身の手で触れていただきたい珠玉の一冊だ。

書き手:小松貴海

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