BOOKLAB.書籍紹介 ピクセル百景 現代ピクセルアートの世界

作家(翻訳者等含む):編/グラフィック編集部 出版社:グラフィック社 出版年:2019年

やりたいゲームを探すとき、意識していないのにいつも2Dスクロールゲームを選んでしまう。
あなたにとって、幼い日の原風景とはどんな景色だろうか。
20世紀最後の年に生まれた私は、ニンテンドーDSやプレイステーションをはじめとして大小さまざまなゲームに囲まれた少年期を過ごした。ゲームの最盛期より少し後に生まれた私には、ゲームがあるのが当たり前の環境で、思い出の光景にはいつも傍らにゲーム機があった。そんな私の精神的な原風景は、ピクセルアート、通称ドット絵だ。
ピクセルとは、デジタル画像の表示における最小単位であり、ピクセルというマスの組み合わせによって描かれるのがピクセルアートと呼ばれる。
今やスマホ、3DCGなどの更なる技術の進歩によって、全盛期と比するとピクセルを用いたゲームは些か勢いを欠いている。しかしアートとしてのドット絵は、今もなお、あるいは現在の方がその市場を拡大している。
『ピクセル百景』は、イラスト・アートとしてドット絵の手法を用いた作品を紹介し、ゲームにおけるピクセルアートの変遷を詳細に記述した珍しい書籍だ。ゲームの物語や世界観を表すための手段の一つであったピクセルアートを、ゲームの画面としてではなく、それ自体ひとつの作品として取り扱うという新鮮な紹介法をとる。
ゲーム文化の停滞と表現ツール・技術の進歩という追い風の中にあって、どうしてピクセルアートが一ジャンルを築くほどになったのか。
こういった疑問点に対しての返答も述べられており、サブカル好きには垂涎の一冊である。
そのキーワードは「制約」だ。
ピクセルアートの原点には、当時の技術的限界に挑戦するというチャレンジがあった。たいへん有名な話だが、なぜマリオの鼻が丸く大きく描かれるかというと、表現に用いることのできるピクセル数が少ない中で、プレイヤーに自身の操作キャラクターがどこを向いているか分かりやすくする必要があったからである。あまりに限られたドットの中で万人に見やすいように表現することは、逆に言えば、幼い子どもでもゲームに慣れていない人でも、簡単かつ直感的に理解させられる方法ということだ。
制約があることによって、かえって普遍性や伝わりやすさ、意図の明白さが獲得されている。
そこにいかに作者の個性をのせることができるのか。ゲームにおける表現のツールという枠を超えて、制約を楽しみながらオリジナリティを生み出すことの難しさと創作の面白さが、ピクセルアートには詰まっている。現代アートという言葉に親しみがなくとも、気軽にその良さが肌身に感じ取れる点に、本書の工夫が凝縮されている。
SNSの普及により、万人総クリエイター時代などと評されるようになって久しい昨今。ピクセルアートは、たとえ絵を描くのが稚拙でも、そこに込められた発想が良ければ容易に評価されうる。私たち若者世代には特に、幼い頃憧れた世界が誰にでも見られる・使うことが出来るというノスタルジーも相まって、『ピクセル百景』を開けばドット絵の虜になることだろう。

書き手:小松貴海

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