地域医療の充実へ意欲 旭川医大西川学長に聞く(下) 名寄市立病院と連携強化図る 大学のレベル高め地域医療に貢献

旭川医科大学校舎正門

―名寄市立総合病院は、地域救命救急センターの指定を受け、道北北部の地域医療の中心的な役割を担っています。大学と名寄市立病院との連携、役割などはいかがですか。
西川学長 現在、本学では中核病院や地域医療連携推進法人などとの連携を進めています。昨年、国からの要請に従い、「旭川医科大学大学病院改革プラン」を策定しました。道北、道東地域の広大な面積と移動時間を考えますと、旭川医大から医師を派遣することは現実的ではありません。中核病院に人材を派遣し、さらにその先を支援していく形をとることが必要だと思います。
大学からは、上川北部、上川中部、富良野の中核病院を中心に医師を派遣しています。上川北部に続き、富良野圏域にも地域医療連携推進法人ができましたし、中空知とも連携を深めています。最近は、深川市の協力で寄附講座を設置していただいたため、新たに内科医を雇用することができるようになり、留萌地域の医療にも貢献できるようになりました。改革プランの中でも、上川北部地域との連携、将来的には遠紋地域まで広げていくことが触れられています。これからは地域の病院、自治体との連携を深めていかないと地域医療は維持できません。
救急に関してはクラウド型の遠隔医療が重要で、既に道北北部では、名寄市立病院を中心とする「ポラリスネットワーク」が稼働していますし、本学も外科学講座や救急医学講座を中心として積極的に取り組んでいきます。これまでの名寄市立病院との連携は大変意義があるものでしたが、今後も、確実に連携を強化していきたいと思っています。
―特に、医師不足が著しいへき地医療の在り方についてはいかがですか。
西川学長 本学としては地域枠入試を維持することで、将来本学の地域医療活動に参画する意志を持った学生を一定数確保するとともに、地域医療がいかに大切でやりがいがあるかをすべての学生に伝えていきます。大学全体で協力して地域医療医を育て、地域で一定期間働き、大学に戻ってきたら、新しい技術を身に付けて専門性を高めたり、研究活動に従事したりできるようなアカデミックな環境を整えたいと思います。医療の実践で見出された疑問や課題を解決し、理解を深めるには研究をしなければなりません。まずは本学の講座間での連携、特に基礎医学講座と臨床医学講座の連携を促していきたいと考えています。
いわゆるへき地においても必要な医療をタイムリーに届けることができなければなりません。そのためには中核病院がサポートする形で進めていく必要があります。先に述べました地域共生医育センターが現在、各地域医療の実態を調査しておりますので、どのような形でどういう種類の医師を配置すべきかを明らかにし、個々の医師に過度の負担をかけないような体制を作っていきます。自治体の首長の方々と話していて、医療を支えることが地域にとっていかに大切であるかを痛感しています。今まで述べたような取り組みを実行し、着実に成果を上げていきたいと思っています。
―今後50年、100年を目指して、旭川医科大学が目指す方向性について教えてください。
西川学長 これまでの50年間の社会情勢の変化はあまりにも急激で、50年、100年先の状況を見通すことは難しいかと思います。ただ、少子高齢化が急速に進む中で地域医療をどうやって支えていくかは最も重要で、今から真剣に考えていかなければなりません。どういう状況になろうとも、地域の医療を支え、一定以上の医療水準を維持していくことは本学の責務だと認識しています。
子どもの数も確実に減っていきますので、医師や看護師を目指す受験生の数とレベルを保っていけるかも危惧されるところです。やはり教育のレベルを高め、入学した学生をしっかり育てることが医療や研究のレベルを高めることにつながると思います。国立大学の財政状況は厳しくなっていますが、現時点でできることはすべて実行し、将来に備えていきます。本学がしっかりしないと地域の皆様の生活が維持できなくなるという危機意識を持ってがんばっていきます。
大学として将来を担う人材を育てる上で、どんな時代になっても研究をないがしろにしてはいけません。研究に専念する研究者だけでなく、医師、看護師として働く場合でも研究心がなければ医療の質を保てないと思います。教育を実践する中で、学生たちの中にどのようにして研究心を育てていくか、医育大学として、そこが最も大切なことではないかと思います。もちろん、医師・看護師の国家試験に合格するのは1つの目的です。しかし、単に知識や技能を教えるだけの医学部であってはいけません。研究する意欲のある人、将来にわたって自分で学びながら、医学・看護学に貢献していく人材を育てていきます。
本学は医科大学として今後もしっかりとした教育、研究、診療活動を行い、地域の皆様に認められ、頼りにされる存在であり続けたいと思います。そして地域の皆様からのサポートもいただきながら、大学としてのレベルを高め、地域医療にさらに大きく貢献していきます。この方向性は100年先もきっと変わらないものと信じています。
医療界を目指す子どもたちへ
「人を助けたい」気持ち持って
―将来、医療分野の仕事を志している中学生や高校生など、子ども達に向けてメッセージをお願いします。
―西川学長 先日、医療職を目指す高校生を対象とした「高大病連携フォーラム」を旭川市内のホテルで開催しました。久しぶりに対面で実施し(オンラインも併用)、約120人の参加者と地域医療についての課題について話し合いました。これからも本学が主体となって高校生に医療に関心を持ってもらう機会を作っていきます。今後はより低年齢の中学生や小学生たちにもアプローチしていく必要があると思っています。
タブレット端末の普及や人工知能(AI)の利用などで、教育環境は大きく変わってきています。これからさらに劇的な変化が起こるでしょう。こんな状況だからこそ、特に若い皆さんには言葉の勉強を大切にして欲しいと思います。特に、医師や看護師として働く場合には、それぞれ個性が異なり、人生のバックグラウンドも様々な患者さんを相手にするわけですから、お互いに理解し合うには複雑で豊かな言葉を使ってお互いに理解し合う能力が求められます。医学部に合格するためにはどうしても理系の勉強が重視されがちですが、語学、文学、歴史、哲学などの文系の勉強にも興味を持ち、いろいろなことをたくさん学んで欲しいと思います。そして、大学に入ったらさらに広く、深く勉強して、「科学的な考え方」を身に付けてください。
また、医療人を目指す人には、漠然とした形でも良いですから「人を助けたい」という気持ちがあって欲しいのです。最近は、地域医療に貢献したいという意識を持って医学部を受験する高校生が増えているのは素晴らしいことだと思います。自分自身を振り返ると、そんな高邁な意識を持って大学に入ったわけでなく、恥ずかしい限りです(父が医師であったため医学に親近感はありましたが)。ただ、私は、日本を代表する数学者で教育者の岡潔先生が、祖父から受けたただ1つの戒律、「他を先にし、自分を後にせよ」を生涯大切にされたことに強い共感を覚えています。この戒律は人として生きる上で常に意識しなければならないですし、医療人には特に求められるものではないでしょうか。
たくさんの若い皆さんが医療分野に興味を持ち、私たちと理想の医療を目指して協働する日が来ることを心待ちにしています。
―本日は、大変お忙しいところありがとうございました。
 (松島)

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