地域医療の充実へ意欲 旭川医大西川学長に聞く(上) 地域共生医育センターを充実 マルチタスク型の地域医療医育成へ 大学として地域医療の全体像把握

西川学長

2022年4月に旭川医科大学の学長に就任され、25年2月3日開催の「国立大学法人旭川医科大学学長選考・監察会議」で次期学長予定者に決定され、2期目(任期は25年7月1日~27年6月30日)を担当される西川祐司学長に、同大が目指す今後の教育・研究活動や地域医療の推進などについて話を聞くことができた。(松島)

西川学長は、1960(昭和35)年2月生まれで札幌市の出身。札幌南高校を経て旭川医科大学を84年3月に卒業(6期)し、88年同大大学院医学研究科博士課程を修了。同大助手、ピッツバーグ大学医学部、秋田大学医学部講師・准教授などを経て、2009(平成21)年旭川医科大学医学部教授。同大学長補佐、副学長を経て22年4月から学長。専門は、基礎医学分野の病理学。
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―旭川医科大学は1973年の開学以来、50年以上が経過し、多くの卒業生を輩出しています。はじめに、貴大学が果たしてきた役割について伺います。
西川学長 建学以来、医師は5000人弱、看護師は約1600人、合計約6600人の医療人を輩出してきました。これまで地域の医療の一翼を担ってきましたが、今後も、医育大学としての重要な役割を果たしていきたいと思います。本学は、医師不足の解消を目指し、新設の医科大学として設立されたのですが、国立の医科大学として先端医療や研究を同時に推進していかなければなりません。さまざまな難しい課題はありますが、「高度医療」と「地域の医療を支える医療人養成」両方の役割を果たしていきます。地方にあっても、医科大学としてのレベルを保ち、向上させていくことは絶対に必要なことで、いかにしてこれを実現していくかを常に考えています。
地域共生医育センターを充実し、リレー方式でマルチタスク型の地域医療医を育成
―基礎医学分野の充実・強化が求められています。学長の専門である病理学講座の分野では、いかがですか。
西川学長 現在の医学部のカリキュラムでは、臨床実習のウエイトが大きくなっており、基礎医学や一般教育の講義は圧縮せざるをえない傾向にあります。私は一般教育科目も大変重要だと考えていますし、基礎医学は臨床医学を学ぶ上でのベースですので決してないがしろにはできません。私は学長として、一般教育および基礎医学教育を重視していきたいと思っています。
私は病理学が専門ですが、病理学は臨床医学と基礎医学の橋渡し的な学問と言われています。私は病理医として、病理診断や病理解剖を通し、臨床医とディスカッションをすることで多くを学びました。また、私は肝臓病理学を専門としており、実験病理学ではマウスやラットなどの実験動物やさまざまな細胞を使って実験をしてきました。「地方にいて研究ができるのか」といぶかる声もあるかも知れませんが、私自身の経験から地方にいても世界に通じる研究はできるはずです。私は6期生として本学に入学し、卒業生がまだいない中、大学全体としてもこれから皆で研究を立ち上げようとする中、大学院で一から研究を始める経験ができました。脳梗塞の実験で博士論文を書き、助手時代に肝研究を手がけるようになり、アメリカに渡りビタミンKと肝癌などの新しい研究を行いました。帰国して秋田大学医学部に11年間在籍し、16年前に本学に戻ってきました。秋田大学から現在のテーマである慢性肝傷害と肝癌を一貫して追求しています。研究はどこにいても研究心と努力と多少の資金さえあれはできますし、医療のレベル向上にも欠かせないものです。今後も大事にしていきたいと思っています。
―貴大学は、道北・道東地方の出身者を対象に特別推薦入試枠を設けています。医師不足が進んでいる道北や道東地方の地域医療の現状と課題などについて伺います。
西川学長 道北、道東を対象とした学校推薦型の特別選抜は、志願者の減少などもあり、本年度からこれまでの10人を7人にしましたが、本学として、地域出身の学生を育てることに積極的に取り組むことに変わりありません。私は学長になってからこのことの大切さを強く感じるようになりました。
地域医療を大学全体で担っていくことがこれから重要になると思います。これまでは、地域の病院や自治体の方が、必要な医師を確保するために大学の各医局(講座)にお願いするのが当たり前でした。これも必要なことですが、今後は、大学として、道北や道東などの地域の医療ニーズを把握して、どういう場所にどういう医師を配置すべきかを、大学として責任を持って考えていかなければなりません。具体的な取り組みとして、学内の「地域共生医育センター」を文部科学省の支援を受け、昨年度から充実させています。現在、スタッフも増え、各地域の医療ニーズなどを把握し、医師の偏在などを解消し、地域医療の中心的な役割を担っていくことを目指しています。また、センターを中心に各科の協力を得ながら、自らの専門領域に加え、総合診療、救急医療、在宅医療、僻地・離島医療などの能力も兼ね備えた「マルチタスク型」の地域医療医を育成していきます。どのような患者さんが来ても慌てずに正しく対応できるような地域医療医の育成が求められていると考えています。
また、地域で働く医師を孤立させないようにすることが大切で、大学が常にサポートし、皆で協力して一定期間勤めた後は別の医師がリレーするような方式で、地域の医療を支えていくことを考えています。そうしていかないと、これからの地域医療は維持できないのではと思います。私には臨床経験はありませんが、地域の自治体や病院、北海道医師会の方々とお話ししたり、学内の臨床医と相談したりしますと、だいたいこのような形に意見が集約されるようです。若い医師たちが安心して働ける体制を作っていくことが、私の役割だと思っています。
内科学は大講座制で「内科合同会議」を設置
地域医療の中心になるのはやはり内科学です。内科学の講座をこれまでの3講座制から大講座制とし、内科学講座の中に5つの分野(循環器・腎臓内科学分野、呼吸器・脳神経内科学分野、内分泌・代謝・膠原病内科学分野、消化器内科学分野、血液内科学分野)を設けました。各分野にはそれぞれ責任者を置き、内科全体として協力して人材育成ができるようにしました。また、昨年度末には、「内科合同会議」を設置しました。北海道や自治体の方にも入ってもらい、地域のニーズに合わせた内科医の配置を可能にする仕組みを内科学全体の協力体制の中で作り出したいと思います。
地域医療を守っていくための基盤として、地域共生医育センター設置によるマルチタスク型地域医療医の育成と、内科合同会議の機能充実が大変重要であると思っています。また、大学として、地域医療に関する相談の窓口があるべきと考えており、将来は、地域共生医育センターや内科合同会議が窓口となって、各病院や自治体などから地域への医師派遣などの相談を受けることも可能にしたいと思います。すべてが一元化できるわけではなく、専門的な診療科については医局が窓口になるでしょうが、大学として地域医療の全体像を把握して、積極的に関与していきます。
(つづく)

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