BOOKLAB.書籍紹介 変身

作家:フランツ・カフカ 出版社:新潮社 出版年:1952年(2011年改版)

本日紹介するのは、言わずと知れた名作、フランツカフカ『変身』です。有名すぎるくらいの作品ですが、今だからこそ読んで欲しい理由があります。
実は2024年はカフカ没後100周年であり、様々な媒体にて改めて注目を集めています。
ではなぜ100年以上も前の作品が、今もなお世代を問わず読まれているのでしょうか。
『変身』は、非常に有名な作品であり、かつ100ページほどの短めな作品であることから、読書感想文の題材に取り上げる人も多いそうです。しかし主人公グレゴール・ザムザが虫に「変身」するという奇妙なストーリーに、この作品は何を伝えたいのだろうと悩む方、途中で挫折する方も多いとも聞きます。しかしそれがカフカ作品の長所でもあるのです。
カフカ作品の大きな特徴の一つに抽象性があり、『変身』にはそれが色濃く現れています。抽象的であるならば、そこから何を受容するかも読み手次第であるのです。
例えばカフカ自身はこの物語を笑いながら友人に朗読して聞かせたという実話があります。つまりこの物語を喜劇として捉えていたのです。重くじっとりとした物語であることから、たびたびカフカの変人さを象徴とするエピソードとして語られます。ですが高いところにある物を取れずに泣いてしまう赤ちゃんを見て微笑んでしまうのと何が違うのでしょうか。不条理に不幸な目に遭う存在を笑ってしまうのはそこまで不自然ではないように思えます。カフカは、そのような人間の悪意の本髄を利用して、作品を喜劇にも悲劇にも捉えられる作品に仕上げたのです。
私からも一つ、この小説の捉え方を紹介しようと思います。私はこの小説を、介護についての物語とも解釈しています。作中グレゴール・ザムザは、サラリーマンとして働き、両親と娘を養う稼ぎ頭であったことが明かされます。しかし虫になってしまったばかりに、家族から白い目で見られ、疎まれてしまいます。そんな彼も、「事故によって働くことができなくなった人」と捉えれば、非常に現実的な話と考えられないでしょうか。
誰しもが生活する上で事故や急病に合わない保証はなく、みなグレゴール・ザムザと同じ運命をたどる可能性がある――そう考えるとぞっとします。
もちろんこの抽象的な物語を、単に突拍子もない物語や寓話的なものとして捉えるのも一つの読み方です。ですが作品のことを思い出したときに、別の捉え方を思いつき、それが現実と結びつく可能性が多分にある。それがこの作品が普遍的に読みつがれる理由だと、私は考えています。
驚くべき速度で変容していく世界の中でこの物語は変わることなく存在し続け、かつ読み手によって新たな捉え方が生み出されるでしょう。決して風化しない、消費されない作品です。読書家の方にも、普段本を読まない方にもおすすめです。
評者:高橋龍二