BOOKLAB.書籍紹介 個人書店が選ぶ、いま読んでほしい海の本

作家(翻訳者等含む):選書・文/37名の書店主 制作/一般社団法人3710Lab 出版社:みなとラボ出版 出版年:2024年

海の日、久しぶりの三連休。皆さんは何をして過ごしただろうか。私は冷房の効いた部屋で悠々自適にこの本を読んでいた。
海にまつわる本を様々な書店主が紹介する本書は、「海と人とを学びでつなぐ」プラットフォームである〈みなとラボ〉が企画・出版している。
ベースとなったのは ウェブ連載企画〈Read the Sea〉。本屋の店主が今だから読んでほしいと思う本を4冊選び、それぞれの紹介文を付すというもので、本書はその書籍化作品だ。選書テーマは、子どもに読んでもらいたい「海」の本、大人に読んでもらいたい「海」の本、自分にとっての「海」のお気に入りの本、海は出てこないが「海」を感じられる本、合計4つ。
店主自ら選書した本を売る個人書店では、その人のアイデンティティや地域性、興味関心が如実にその品揃えに表れる。海という共通の言葉であっても、その感じ方やイメージが全然違うことが一目で分かるのが、本書の面白さだ。
例えば南の地域にルーツを持つ人は、沖縄や水俣などでの社会問題を扱う本を取り上げがちであるし、奈良や群馬などの海なし県に住む書店主は、海の不在を明白に意識している。新刊書店では出版年が新しいものから4冊選ぶ人もあれば、古書も扱う本屋からは不朽の名作や知る人ぞ知る本がピックアップされていたり。また、同じ作品を選んでいても、オススメポイントが違うことも大いにある。
その人にしか選べない、ある種必然的と言っても差し支えないような選書であることが、書籍という形で一堂に会したことで視覚化されている。海の持つ多面性と人の価値観の多様性の、見事なオーバーラップがそこにある。海と本を通したエッセイ集のようにも感じられ、本の紹介だけでなく読み物としてもたいへん興味深い。
本の業界は近年、活字離れや材料の高騰化、アナログ媒体の需要低下などを理由にとかく不況と表されがちだ。しかし、多様性が認められる社会だからこそか、ひとり出版社や個人書店といったミクロな視点で本と接する人々が台頭し、その存在感をますます強めている。本という存在への需要のあり方が変容しているのを、肌で感じる。インターネット社会に生きる私達が知りたいのは、世間の常識や一般論ではない。情報を取捨選択できるからこそ、具体的な〈誰か〉の価値観を知りたいのだ。
海洋問題について考えるきっかけを提供するにあたって、個人書店に焦点を定めた企画は、こうした現代人の機微を正確に拾い上げ、未来世代へと繋ぐ架け橋となるだろう。
地球温暖化による海面上昇や海洋プラスチックごみ、漁獲により損なわれる多様な生態系など、海に関する問題は数多あり、そのどれもが簡単に解決するものではない。しかし、まずは興味を持ち知ることが第一歩だ。そして、海について知る選択肢を増やしてくれるのが本書だ。海への祈りが込められた本棚である。

書き手:せを

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