著者:湯沢英治(写真) 東野晃典(構成・文) 出版社:早川書房 出版年:2013年
博物館などに展示されている骨格標本に、恐怖を抱く人は多い。生物が生きている間は決して見えることのない骨が、標本として眼前にあるという、死を直接的に感じさせる状況が不安を与えるためだろうか。今回紹介する『REAL BONES 骨格と機能美』は、骨のそういったネガティブなイメージを見事に払拭する書籍である。
本書は、骨の美しさを追求する写真集としての機能と、各生物の骨格の特質についての生物学的解説書としての機能の二つを併せ持っている。写真を担当する写真家の湯沢英治は、2006年から継続的に骨格標本のアート写真を撮影している。2019年には、国立科学博物館で行われた企画展「恐竜博2019」のメイン撮影を担当し、むかわ竜(カムイサウルス)の実物化石や全身復元骨格を撮影した。解説は、横浜市立よこはま動物園で獣医師を務める東野晃典だ。診療を行うに加え、標本作成の専門家としても知られる。写真のプロと動物のプロとがタッグを組み生まれた本書には、129種218点の美しい写真と、そこに写された骨格標本に関する詳細な解説が収録されている。
湯沢による写真は、真っ黒な背景に標本のみを写したシンプルな構成を取りつつ、光の当て方や撮影の角度、コントラストにこだわりが感じられる。骨の持つダイナミズムや気品が感じられ、美しさが最大限引き出されている。全身骨格を写したものだけでなく、頭蓋や腰椎などの一部分を撮影した作品もあり、自然が生み出した形に魅了される。
加えて東野による解説が、骨の美しさのわけを語っている。東野は序文において次のように述べている。
「動物の骨格は、生きていくための能力を形として凝縮させたものであり、自然淘汰が生み出した精巧なしくみと、機能美をかねそなえた究極の装置であるといえるのだ。」(p3)
つまり骨が美しいのは、膨大な時間のなかで生物が生きるために必要な形を獲得し洗練させた結果であるといえる。そのことは、各標本に付された解説を読むことで、より深く理解することができる。
たとえば、「馬面」という言葉があるように馬の顔が長いのはなぜだろうか。それにはきちんとした理由がある。東野によると、複数の胃袋を持ち反芻して食物を消化するウシなどの反芻亜目の動物と異なり、一つの胃で消化をおこなうウマ科の動物は、食物をよく噛み潰すための巨大な臼歯を持っている。その高度に発達した臼歯を支えるために、ウマ科の動物の顔面骨は大きく成長し、長い顔になるというのである。
このように動物の特徴的な体の形には、合理的な理由がある。その整合性が美しい。本書を読んで一度そのことを知れば、骨格標本を見る目が変わることだろう。湯沢による神秘的な写真と併せて、ぜひ骨格標本の美しい世界を体感してもらいたい。
書き手:伊東愛奈