日本のいいもの おいしいもの

著者:ケイリーン・フォールズ 出版社:朝日新聞出版 出版年:2022年

 『日本のいいもの おいしいもの』は、著者のケイリーン・フォールズが日本で出会ったおいしい食べものを、水彩イラストとともに紹介する書籍だ。フォールズはアメリカのミネソタ州出身。現在は日本でデザイナーやテレビリポーターとして活躍している。本書は日英バイリンガル仕様となっており、日本語も英語もフォールズが担当している。さらに、80点のイラストも全てフォールズが手掛けている。表紙を飾るつやつやのプリン・ア・ラ・モードが食欲を刺激し魅力的だが、ただのイラスト集と思うなかれ。かわいらしい表紙から想像される以上に、日本の食べものや食文化が詳しくガイドされているのが特徴だ。イラスト集として、グルメガイドとして、二度おいしい。それが本書の魅力なのである。

 内容を詳しく見てみよう。まずは構成に注目だ。フォールズのお気に入りの食べものが、四季の流れに合わせて紹介される。「春」、「夏」、「秋」、「冬」という四つの大きなカテゴリがあり、その中に五つから六つの小さなカテゴリが設けられている。たとえば「春」というカテゴリのなかには、「桜のスイーツ」や「喫茶店」、「あんこ」などの小さなカテゴリがあり、その中で「いちご大福」や「あんみつ」など個々の食べものが紹介される。この季節と小さなカテゴリの組み合わせが独特で面白いのだ。「春」と「桜のスイーツ」、「夏」と「透ける食べもの」などのわかりやすいものがある一方で、「夏」と「駄菓子」、「冬」と「コンビニ」などの組み合わせには少し考えさせられる。夏休みにお小遣いを握りしめて駄菓子屋を訪れる子供たち。冬の風物詩・コンビニのおでん。少し想像を巡らせ情景を思い浮かべることでイメージが繋がる、楽しい組み合わせだと思う。

また、紹介されている食べものは全て、購入できる店舗や価格が明記されている。漠然と「寿司」、「和菓子」など食べものの種類が紹介されているのではなく、「この店のこの商品」と著者のお気に入りが指定されているため、日本人にとっても発見がある。なお各章の最後には、取り上げた店の住所や連絡先などの詳細情報をまとめたページが設けられ、実際に行ってみようという気持ちにさせられる。なんとマップアプリに飛んでお店の場所を示してくれるQRコード付きだ。ガイド本としての本気が伝わってくる。

さらに、歴史ある老舗からチェーン店まで、幅広く選ばれているのが日本人にとっては新鮮かもしれない。一般的なグルメガイドに、ファミリーレストランやコンビニ、チェーン店が掲載されることは稀だが、本書では日常生活でよく目にする店や商品が数多く紹介されている。特にフォールズが力を入れて紹介しているのはカレーのチェーン店、ココイチだ。辛さやトッピングを自分好みにカスタムできることに驚かされ、お気に入りとなったそうだ。日本に長く住んでいるとなかなか気づくことができないチェーン店の魅力を、フォールズの視点によって感じることができる。

 バイリンガル対応のこの本は、日本を訪れる外国人にプレゼントしても喜ばれるに違いないが、日本に慣れている人にとっても十分に読みごたえがある。外国人観光客が急増しているこの頃、本書を手に取って日本の魅力を再発見してみてほしい。

書き手:伊東愛奈

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